Gandini Juggling 「Smashed」2013 Edinburgh Fringe

以下、過去に別サイトに載せた感想文の転載です。
一番最後に2020年公開中のSmashedの動画(全ショー)を貼っておきます。

エディンバラフリンジフェスティバルのプログラムが発表されたとき、私は途方に暮れていた。せいぜい2、3団体しか来ないだろうと思っていたサーカスが、検索をしてみると20以上も来ることになっていたのだ。滞在日数はもう決めてしまっていて、その期間でさて何を観ようとふるいにかける必要があった。

なんせどれも、一度も観たことがない団体ばかりだ。circusというキーワードでひっかかった公演名・団体名を片っ端からネット検索にかけ、オフィシャルサイトや動画を観て、気になればチケット予約をしていった。

その地道な作業の中で、一旦紹介動画を再生したものの数秒後には停止ボタンを押した団体があった。

それがこの、Gandini Jugglingによる「Smashed」だ。

もちろん動画がつまらなかったのではない。これは絶対面白い、そう確信したのである。そして、これ以上動画で観てしまうのはもったいない、とさえ思い、自制した。

はたしてその予感は、当たった。

そんなに期待してしまうと大抵は期待を裏切られる結果に終わるのだが、幸運にもそういうことはまったくなかった。

彼らのショーを観たのはエディンバラに着いたその日だった。日本ではほぼ徹夜して朝を追いかけるような早朝発の飛行機に乗り込み、午前に着いたヒースローからの乗り継ぎでは待たされ、ようやくエディンバラにたどり着いた曇り空の涼しい夕方だ。

普通の旅行者ならば街に着いた時点でばてているだろうという時間帯に、敢えてこのsmashedの観賞予定をねじ込んだのは、それだけ期待していたからでもあるし、見逃したくなかったからだ。

とはいえ、私が観賞前に持ち合わせていた彼らに関する知識は本当に乏しい。

ジャグリング集団。一言でいえば、これぐらいしか知らなかった。

ジャグラーという言葉は10年前に比べるともうすっかり日本でも定着していて、サーカスでのショーはもちろんのことテーマパークや公園、ショッピングモールなんかでも、ジャグラーによる大道芸を見かける機会が増えた。そして多くの人はジャグリングというと丸いボールをお手玉のように回す、その様を思い浮かべるであろう。しかし実際のジャグリングショーはボールはもちろん、色々なものを回し、投げる。クラブやナイフ、デビルスティックにディアボロ、皿や傘や座布団、ほうきまでお手玉する人もいる。つまりなんでもありだ。だからこそ工夫のしがいがあるのだろうし、観ている方もただ投げるという共通した行為を新鮮な気持ちで観ることができる。

しかしSmashedは違う。ほとんど、ボールしか投げない。もしくは林檎。いずれにしても丸い、手のひらサイズのものであり、スタンダード中のスタンダード、直球中の直球。それだけで、1時間もショーをやろうというのだ。

しかも、9人で、だ。

ジャグリングユニットはもちろん世界中にいるが、そのほとんどはせいぜい4、5人ほどの構成であるし、例え人数が増えてもサーカスの中の一演目になるだけである。大人数で、ボールだけを使って1時間もショーを行うなんて、そんなシンプルすぎてこちらが戸惑ってしまうほどの挑戦に、俄然興味がわいてしまった。興味があり、時間が合う。フリンジのショーを観に出かけるには、これだけの理由で充分だ。

ショーが始まった。

決して大きくはない会場だ。いわゆる大ホール規模でのサーカス上演がないのもフリンジの魅力であり、ごく身近にステージとアーティストたちを感じることができる。

また、席は全席自由であり、要するに早い者勝ちだ。

この公演のとき、私が会場に着いたのは確か20分前だったが、すでに入場を待つ客の長蛇の列ができていた。明確な開場時間が告知されているわけでもないので、いい席に座りたければ早く行くしかない。また、一番に並んだからといっていい場所に座れるというわけでもなく、「よろしければ奥から詰めてください」とスタッフが懸命に声を張っているのでなかなか抗いがたい。つまり、どこに座れるのかは運次第だ。席取りに関しては肝要な気持ちで臨んでほしい。

ちなみにsmashedで長蛇の列ができていたのは、同じ敷地内にある別の会場での公演(確かミュージカルだった)にも列ができていたからだと、いざ入場する際に判明した。ひょっとすると並ぶ必要がなかったのかもしれないので、毎回確認することをお勧めする。

ショーの内容に戻ろう。

9人によるジャグリングだ。

どれだけアクティブに動き回るのかと思えば、9人が一列に並んだところからショーが始まる。70年代の音楽に合わせて3ボールをそれぞれがジャグリングし、リズムよく、お行儀よくパレードのようにステージ上をぐるりと回り始める。そういえば男性アーティストの髪型も、どことなく70年代風のオールバックで服装はスーツ。その格好で、顔だけおどけ始める。目を見開き、小さな笑いの波紋を観客席に投げかける。

一言で言ってしまえば、ショーのほとんどの部分は、こうして一見「規則正しく」進行する。ステージ上に一列に並んだ椅子に全員が座った状態で音楽に合わせてジャグリング、そこから立って、ボールを回し横歩きしながら行進ジャグリング、こういった具合だ。しかし穏やかなショーを1時間見続けたいと願う客はいない。

そこで彼らは、少しずつ笑いのエッセンス、もっと言うと究極の遊び心を盛り込んでくるのだ。

規則正しいものを見せ付けられるとそのうち、観客の中に疑念が生まれ始める。まさかこのままショーは続くのだろうか。そろそろそのリズムを崩したいというかすかな、されど自然な欲求が芽生え始めた頃合を見計らったかのように、彼らはボールで遊ぶ。

ジャグリングというと、どうしてもボールを5つ回しただの7つ回しただの、数の勝負になってしまいがちだが、彼らは違う。基本的に一人あたり3つ、ないしは5つのボールだけで、ボールを回しながら何ができるか、という課題に取り組んでいくのだ。いかにジャグリングショーの顔を保ったままジャグリングの常識を覆すか、その挑戦と成功に観客が魅せられているうちに、ステージの秩序はいつのまにか崩れている。そこまでやるか、というほど崩れに崩れ、そして最後は……。これ以上は書けないのがもどかしいが、月並みな文章で結ぼう。自身の目で確かめてほしい。

ちなみに彼らGandini JugglingはUK内のこうしたイベントではおなじみらしく、2012年のロンドンのマイムフェスティバルにも出演している。気になった方はUKに旅行の際、近くのイベントをチェックしてみるといいかもしれない。

【鑑賞日】2013.08.23
【場所】Edinburgh Fringe