液体ミルクとフィンランドの子育て

乳児用液体ミルクの販売がついに日本でも解禁された。
その関係でちょっと日本の方に取材協力し、ついでにフィンランドの子育てについて私、夫、義弟が話して、私自身がとても興味深かったのでメモしておこうと思う。

フィンランドで引きこもっているとなかなか気付かないけれど、ここははっきり言ってとても子育てがしやすいところだ。
ヨーロッパならどこでもそうかと思われがちだけど、例えば去年秋に旅行したギリシャ・イタリアでは離乳食がどのスーパーでも売っておらず、やっと一商品だけ見つかったと思ったら8ヶ月用のドロドロしたペーストで、しかもフィンランドの3倍もする3.5ユーロ。当時1歳3ヶ月の息子は食べてくれなかった。
フィンランドでは1〜3歳用という離乳食が売られていて、パスタボロネーゼだったり、サーモンポテトだったり、塩分含有量が少ない割にハーブが効いていたりして大人が食べてもしっかり美味しい味がする。しかも大抵のスーパーでそれが手に入る。
うちはドイツ系列の大手スーパーLidlをよく使っているので、同じLidlならギリシャにもイタリアにもあるし、とそこを覗きに行ったら、フィンランドの支店でならある離乳食はおろか、パンツタイプのオムツさえもなくて絶望した思い出がある。
(ちなみにパンツタイプのオムツは台湾でもものすごく見つけづらく苦労した。それはまた後日)
ローマでは地下鉄駅に当然のようにエレベーターがなく、それはまあいいのだけれど、夫がベビーカーに息子を乗せたまま担いで狭い階段を登っていたら、その間に二組の似たようなベビーカー母子連れが来て、それを誰も手伝おうとしないことに驚いた。観光客が行くような場所ではなく、地元の人が普通に使うターミナル駅のことだ。結局夫が階段を3往復し、ベビーカー運び屋さんになった。あの母親たちは普段、自分で頑張っているのだろうか。誰も手伝わないのだろうか。フィンランドだったらバスの乗り降りの段差でさえ、みんな手伝ってくれるけど。
そんなこんなで私はローマが嫌いになった。ピザもまずかったし。

さて、そんなフィンランドの子育て。
日本の方の質問に答える形で夫、義弟がフィンランドのお父さんとして回答したのだけれど、面白かった質問がいくつか。
「産後のうつなど日本でも問題になっていますがどのように奥様をケアしていますか?」
 質問者は朝のゴミ出しを手伝うとか、ご飯を作るとか、そういうことを聞き出そうとしたらしい。しかし夫の回答は全く噛み合っておらず、
「ケアというともっとしないと、と思ってる。例えば妻をディナーに連れて行ったり、もっと子供を預けて二人の時間を作ったり、ジョギングに一緒に行くだけでも、なかなかしたくてもできていなくて申し訳ない。でもどうしても、夫婦揃って子供が一番になってしまう」
私はこの回答に正直感動を覚えた。
日本の平均的なお父さんというと、子供とちょっと遊んだり、風呂に入れたり、ゴミ出しをしたりするのが家事育児参加だと思っている節がある。うちの父親も典型的な昭和のお父さんだったので、そんなもんだったと記憶している。
そこへうちの夫。自分は働いていて、私はほぼ無職状態だというのに、家事を折半していて、子供の面倒も怠惰な私より見ていて、それでも足りないと思っている。私が普段している家事なんて、正直ご飯作りくらいなものである。これは私が好きだからあまり譲らないだけで、怪我をした時は夫が毎日作ってくれたし、週に一回ぐらいはテイクアウトとかランチに行くとかで手抜きしている。
この回答を裏付けるように、夫はこうも答えた。質問は、
「たまには家事がめんどくさいとかは思わないんですか?」
→「自分を含めフィンランド人の多くは18歳から一人暮らししているので、自分も家事を自分ですることに慣れている。それが女の仕事だとは思わないし、めんどくさいといえば例えば母親が一緒に暮らしていて自分の洗濯物をしたりする方がめんどくさい。家事も育児も男女どちらかの仕事ではないし、育児に関しては自分はしたくてしている」
つまり仕事をしていようがいなかろうが完全に夫婦は対等なのだ。普段からなんで洗濯物とか洗い物とか私が放置してもやってくれるのか薄々疑問だったけど、ものすごい謎が解けた気分だった。
私自身、昭和の両親に育てられたのと日本で長年染み付いていた習慣で、家事は時間がある方がやらなきゃいけないものだと思っていた。育児に関していえば、これはちょっとねじれた思考だけど、日本のお母さんはもっと大変な環境で一人で頑張っているのに私は夫にかなり手伝ってもらっているんだから、と、できない自分が歯がゆくなったりストレスに感じたりプレッシャーを背負ったりした時期があった。でも別に、そこまで頑張らなくてよかったんだな、と今思う。
夫婦平等という言葉は、平等に負担を背負うことだと私は思っていた節がある。多分日本でも多くの場合が、そう解釈されていて、だから共働きの夫婦は家事が当番制になったり、育休中もしくは専業主婦の母親がワンオペ育児するのだと思う。
だけどうちの場合は平等の解釈はちょっと違う。これを日本の友人にいうと結構驚かれるのだけど、我が家の家事に当番制は一切ない。前述したように食事担当はほぼ私だけど、朝ご飯だけは私が朝弱いので夫が作っている。昼夜を作るのは基本的に私(夫は家で仕事している)。洗濯は溜まってきたらどちらかが洗濯機に放り込み、セットし、出来上がったら手が空いている方が干す。でもどちらかというと干すのは夫がやりがちだ。食器洗いは食洗機に任せるけれど、食洗機に入れるのも、それを空にするのも、やっぱり気付いた方。例えば手洗い必須のものを洗っている途中で子供を寝かしつけに入り、私がそのまま一緒に寝落ちしてしまうようなことも多々あるけれど、そういうのは夫が寝る前までに全部片付けてくれる。掃除機をかけるのも、子供を捕まえておくという準備があるから「今からかけるよ」という声がけはするけれど、別にどっちがするというわけでもない。
つまり平等というよりは、夫婦の立場は対等で、家事育児は分担ではなく共有するものなのだ。
私としては正直どっちかというと夫が多めにやってくれているような、それでいて彼が割りを食っているような気もするけれど、本人に気にしている様子はない。なので、あー、あれやっておかなきゃなという家事を夫がしてくれたりすると、素直にありがとうと言えるし、逆にお礼を言われることも毎日のようにある。当番なのにやってくれなかった、というストレスも一切ない。
液体ミルクにちょっと話を戻して、日本からやってきたインタビュアーは液体ミルクが解禁されたことによってお父さんの育児参加がしやすくなるという切り口で取材したかったらしい。彼は、例えば、とこんな例を挙げた。
「今まで扱いが煩雑だった粉ミルクから、手軽に与えられる液体ミルクになったことによって、夜中の授乳をお父さんが変わってくれたりするようになると言われています」
私はそれを聞きながら、内心首を傾げていた。
夜中に我が子が泣いても、妻が疲れていても、面倒な役割を買って出てくれなかった男が果たして液体ミルクになっただけで起きてくれるだろうか。
液体ミルクになって私が大いに期待しているのは、持ち運びが手軽になること(保冷がいらない)、お母さんもしくはミルクを粉で作っていた人の負担が減ること、備蓄が簡単になること、であって、育児参加しないお父さんの意識改革までは考えたことがなかった。
もちろん手軽になって、それいいね、と男性が興味を示すきっかけになることはあるかもしれない。でもうちのよくできた夫でさえ、次の日に仕事がある日はちゃんと寝たいと主張し、夜中の授乳を母乳から液体ミルクや搾乳済みミルクに変えて自分が、なんて考えなかった(育休中に夜泣き・授乳後のゲップだしや寝かしつけはよくやってくれた)。そしてそれがごく普通だと思う。
なので液体ミルクの販売解禁は我が事のように嬉しいけれど、それでワンオペ育児が解消するとは楽観視してはいけないし、そもそもの意識改革と制度改革がされない限り、どうにもならないと私は思っている。

最後に、夫と義弟の回答が見事にシンクロしていた質問を紹介したいと思う。
「日本の男性があまり育児参加できていないことについてどう思いますか?」
答えは、「忙しいからどうしようもないとしても、損をしていると思う。子供をベビーカーに乗せて連れ歩いたり、遊んだりすると父親として誇りを覚えるし、幸せを覚える瞬間で、自分がやりたくてやっていることだ。でないと子供なんて作らない」。
これこそがフィンランドのお父さんの標準意識であって、日本のお父さんやクソな発言ばかりする政治家との違いなんだと思う。

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