妊娠中の旅行について

私は妊娠中にフィンランドの国外へ5、6回渡っている。国内の宿泊旅行も合わせて数えると10回ほど旅行しているだろうか。
しかしそれはよくありがちな「安定期に入ったし夫婦の思い出作りにマタ旅いぇーい!」みたいなノリじゃなく、もともと入っていた旅行の予定を消化しただけのものがほとんどだ。
というのも夫婦揃って旅行好き、常に次の旅行の予定が入っているような状態なのでこの状況は避けられなかった。

中でも一番大きかったのは、と言っても我が家の旅行の中では「短期旅行」の部類なのだけれど、妊娠9週・10週目に入っていたUAE・オマーン旅行12日間だった。
これで日本に住んでいたら、中東なんて何かあったらどうするの、と言われそうだが、一応言い訳させてほしい。

旅行の予約をしたのは妊娠がわかる前だったが、「もし妊娠したらどうしよう」と考えはした。その上でUAEとオマーンなのだ。
この2国に決めたのは、
1、旅行ばかりして100国近く訪れたことのある夫も、私も共に訪れたことのない国
2、ジカウィルスが発生していない地域
3、寒いフィンランドからエスケープするに最適な暖かい場所
4、冬期休暇中安い場所
という条件から、色々検索して見つけたからだ。

余談だが夫はいつも「カントリーポイント」を口にする。
夫が自分の中で勝手に作り上げたシステムなのだが、旅行に行くならまだ行ったことのない国を訪れて、カントリーポイント(今まで訪れた国数に加算される)をゲットしたい、ということらしい。
そういうわけで、私はせっかくヨーロッパの片隅に住んでいるのだから欧州内を堪能したいと思っても、とっくに欧州の国全部を制覇した夫にとっては「カントリーポイントにならない」ということで、私は未だにベニスやローマ、ブリュッセルなどのメジャーどころに行ったことがない。
そのくせ夫は何度も訪れたことのある日本に、日本人妻の私よりもホームシックに近い感情を覚えスキあらば行こうとするから、厄介なことこの上ないのだ。

さて、そんなカントリーポイントやらに基づいて決めた旅行先。
2国と言っても私たちが滞在したのはドバイとオマーンの首都マスカットのみ、しかもいつもは貧乏旅行ばかりでキャンプ旅やホステル泊ばかりなのだけど、この時ばかりは物価の違いを利用させてもらい、ちゃんとした星付きのホテルを予約した。それもいつも移動ばかりなのとは打って変わって連泊、ゆったりとした旅行を心がける準備は万端である。
ドバイもマスカットも先進国と変わらない、もしくはそれ以上に発展した大都市である。駐在員が山ほどいる国際都市でもあるので英語の通じる病院も多い。関係ないが無印やダイソーまである。

なので妊娠がわかってからも旅行キャンセルなどは考えず、むしろ「ドバイにしてよかった」と胸をなでおろしたというのが実際のところだ。
そもそもこの旅行の頃は妊娠初期。何かあったら、というのはもちろん頭の中でシミュレーションしたし夫婦で真面目に話し合ったりもしたけれど、その何かは母体が何をしても(もしくは何もしなくても)起きる出血やその末の流産なので避けようがない。初期の流産は胎児の染色体異常が原因で、よほどの無茶をしない限り母体の落ち度ではないのだ。もちろん旅行保険には常に入っている。
あとは何かあった時に「あのとき旅行にさえ行かなければ……」と自分を責めるかどうかというメンタルの問題だけだが、そこは自分は大丈夫だろうと判断した。旅行に行かなくても、もし自責の念が芽生えてしまうならば食べ物や生活習慣、年齢など小さいこと一つ一つを気にするだろうし、その沈みは受け入れるしかない。そこまで覚悟していた。
そんな覚悟の上でネウボラの初回訪問で相談すると、ネウボラおばさんは手放しで「いいじゃない、太陽光たっぷり浴びてきなさいよ」と大歓迎ムードだったので、むしろ拍子抜けしてしまったほどだ。

それでも実際の旅行では砂漠の醍醐味とも言えるラクダライドや、サンドバギーなどのアクティビティは避け、午前中はホテルのプールでゆっくりしてから午後は観光、などといった、我が家には大変珍しい旅行メニューでのんびりさせてもらった。
つわりはピーク時だったけれど、4週目から始まったそれもひとつきを過ぎ吐きつわりからお腹が空くと吐く(吐いても胃酸ぐらい)という食べつわりに変わっていたので、この頃には自分でコントロールもしやすくなっていた。
気温だけが唯一ネックで、街中にいた時はエアコンが効いていて良かったが、オマーンで砦観光に行った時は27度という気温を体が調整できなくなっていたらしく(日本では35度でも平気だったのに)、目眩を覚えて何度か休憩を挟む羽目になった。けれど、そこは夫が甲斐甲斐しく水を運んでくれたり、日陰を作ってくれたり、砦にやたらある階段を先に登ってその先に階段を登るだけの価値ある眺めがあるか下見してくれたりと逐一世話を焼いてくれたので(細かいが大事なことである)、乗り切ることができた。

その他の旅行では、中東旅行の前に短期だけれどベルリンに2泊で遊びに行ったり、エストニアのタリンにフェリーで日帰り旅行したり、極寒−42度のラップランドへオーロラを見に4泊したり、中期にはロンドン2泊やベルリン・プラハ4泊旅行、後期にも近場だけどストックホルムやまたもやエストニアへ泊まりで行っている。 

かといって妊娠中の旅行をお薦めするというわけでは決してない。
私がそんなに旅行できていたのは、ひとえにEUのおかげである。フィンランドの保険証は申請すればEUバージョンがもらえ、それさえあればEU諸国で病院にかかってもフィンランド国内と同様の保険が効くのだ。海外で病気になって高額な医療費を請求される、という心配もない。
妊娠初期なら旅行保険が効くので中東にも行けたけれど、中期以降に旅行したのは医療レベルに信頼の置ける、そして何かあってもすぐフィンランドに戻ってこれるEU内だけだ(同じEU内でもやっぱり言語の問題とか怪しげな国はあるので一応選んではいる)。

日本では妊娠中の旅行に限らず何かにつけて「何かあったら……」で頭ごなしに反対される気がするけれど、何かあったらどうするの、と聞かれた時に自分の言葉で答えられるぐらいリスク管理ができていれば、あとは自分で判断していいのではないかと思う。

ちなみに中期の終わりに差し掛かった頃のフライトは、座っているだけという状況が大きいお腹に圧迫されて息苦しかったので、そのあとは移動中も身体を動かせるフェリーや、高速バスの代わりの電車を選ぶようにした。そのあたりの体調との相談もマニュアル通りには行かないので、自分で臨機応変に対応できるよう準備しておくといいかもしれない。