14週:ネウボラ検診②と妊娠中の風邪

出生前検査も終わり、ネウボラでの2回目の検診に行ったのは14週も終わりかけている時だった。
初回検診からひと月以上経っているので、またそんなに長い間放置されることに多少不安を覚えてもいたけど、ラボでの検査やエコー検査、それからインフルエンザの予防接種などをバタバタと受けていたので、あまりじっくり考えている暇もなかった。

インフルエンザの予防接種は、毎月一度、ネウボラで行なっていて、妊婦は無償で受けられるという。
妊娠中は免疫力が落ちると言われているし、ちょうど真冬でインフルエンザが流行っていたのでこれは本当にありがたかった。

しかしそこまで予防していたのに、つわりがほぼ終わり、やっと元気に食べられるようになった頃に私は見事に風邪を引いた。
検診でネウボラや病院に出向きいつもより菌に触れるようになったのが原因だと思うけど、妊娠してから風邪を引くのはこれが2回目。しかも結構しつこい風邪で、熱の後、咳が3週間ほど止まらず夜に自分の咳き込みで目が覚める、もしくは食後に咳き込みすぎて吐くという嫌な症状が続いていた。
そもそも日本にいた時から、私は風邪で高熱を出すとそのあと気管支炎や軽い肺炎になりやすかったのだ。
あまりにも眠れないのでネウボラへ行くついでに同じビルにある保険センターに予約を取り、診察してもらうことになった。

ちなみに私は、2年にも満たないフィンランド生活で既に保健センターが嫌いになっていた。
以前口唇ヘルペスが出た際処方箋をもらいに行った時に、症状が軽いからと医師ではなく看護師の診察予約を取られた。これはよくあることでまあいい。必要以上に医師を使わない工夫も必要なのだろう。
しかし実際に看護師に会うと「なんでわざわざ来たの?」とばかりの態度を取られ「処方箋なくても薬は買えるし、そもそもヘルペスは何もしなくても、顔中に感染が広がるとかじゃない限りほっときゃ治る」と言われてしまった。
そもそも私がわざわざ予約を取ってまで出向いたのは、薬局に夫が確認したところ処方箋ありの方が薬代が安くなると言われたからなのだけれど、それを告げると、挙げ句の果てには「でも処方箋を出すには医師の診察が必要でその場合20ユーロほどかかるので却って高くつく」と大嘘をつかれた。
ヘルシンキの保健センターは診察代金無料である。その前にも何度か利用していた私はもちろんその事実を知っていたし「今まで払ったこともない」と反論したのだが、「請求書は後から家にくる」だのと言われ結局私は手ぶらで追い返された。もちろん処方箋もない。
その後、ヘルペスの薬代に関しては処方箋がなくても値段は変わらないと判明したので薬局で普通に塗り薬を買ったのだけれど、診察代に関してだけは何度調べても、夫に聞いても、やはりヘルシンキはタダである。保健センターの受付に電話して確認までしてもらったが、事実は変わらない。そんなガイジンの私でも知っている事実を看護師(しかも若くもない)が勘違いして平気で告げることに、私は彼らのプロ意識を疑わざるを得なかった。なんで来たの、という態度も私を萎えさせた。

というわけで妊娠中に咳が3週間続いて眠れなくても私はできるだけ保健センターには行かないように努めていたのだけれど、夫が私以上に心配するので仕方なく予約を取った。妊婦にも安心な咳止めの薬か睡眠導入剤ぐらいは処方してもらえるだろうと思っていた。
しかし予約の電話をして確保してもらったのは口唇ヘルペスの時と同じ看護師の診察枠のみで、症状を訴えてもやはり「なんで来たの」と開口一番に聞かれてしまう。
ただしこの時の看護師は前回と違って丁寧で、いつも気管支炎になるのでと告げると医師を電話で呼んでくれ、私は簡単な診察を受けることができた。
まあそれでも結果は変わらず、「咳は通常4週間ぐらい続くから様子をみて、抗生物質は出したところでなんの助けにもならないから。咳したところでお腹の子に別に害はないし」と言われ、私はやはり手ぶらで帰ることになったのだけれど。
日本の病院が薬を出しすぎなのは承知している。しかし咳が4週間続くのが普通というのは聞いたことがない。
というかフィンランドでは風邪を引いたり健康に害があったらすぐに休める。医師に病欠証明書を出してもらいさえすれば、日本のように有給休暇を工面することもなく、給料を削られることもなく休めるのだ。なので咳が辛ければ休めばいいというのがきっと看護師や医師の言い分で、更に働いていない私は病欠証明書もいらないのだろうからなんで来たの勝手に寝てれば、という態度に繋がるのだろう。

長くなったが、そんな前置きの後にネウボラ診察があった。
診察前に自分で済ますことになっている体重、尿蛋白、血圧のチェックを行い、担当のネウボラおばさんに会う。
まずは宿題であった精神状態チェックのアンケート用紙のようなものを提出した。これは「自分の精神は健康的だ」「パートナーとなんでも話し合える」「妊娠中は精神が不安定になるのは知っている」などの質問に1から4までの点数で答えるという簡単なもので、提出しただけでさらっと終わった。
それから胎児の心拍確認。ここでそれができるとは知らず、それなら妊娠確定かどうかわからなかった初回訪問の時にしてくれればよかったのに!と思ったが、ビョコビョコ鳴る子供の心音を聞いてるとうちにどうでもよくなった。今日もどうやら何者かが腹の中で生きてるらしい。
あとは母乳についての簡単なレクチャーもあった。母乳がいかに子供にとって大事で、というこれから親になっていく者からしたらちょっとプレッシャーのかかる話で、ウェブ上にある母乳に関する資料も「これ目通しといてね」と案内された。もちろんフィンランド語で書かれているので、私にとっては読むだけで試練である。少なくとも辞書が必要だ。
しかも母乳なんて産んだ後の話、他にも実際産む時の話とか妊娠中の注意事項とかそういう指導が入るものだと思っていたが、何もなかった。最後に17週目の医師診察と次回の予約(それも2ヶ月後)を取って終わり。2度目のネウボラ訪問はあっさりと終わって拍子抜けしたのを覚えている。
子供の生存確認はその間どうするんだ、とまたもや妊婦初心者は不安になったけれど、これも心配いらなかった。何故なら次のネウボラ診察の前に胎動が始まったからだ。ネウボラのスケジュールも妊婦の体も本当によくできている。

13週:エコー検査①と出生前診断

ネウボラは基本的に看護師であるネウボラおばさんと会う場所である。
エコー検査を行うのは資格のある専門検査医もしくは医師のみなので、検査の際はネウボラとは別の、市内の産院へ出向くことになった。検査の日取りは一週間ほど前に自宅に手紙で「13週と20週に当たるこの日のこの時間に病院に来てね」と召喚状のようなものが届いただけで決まった。もちろん平日昼間、都合を聞かれることもなし。大腸内視鏡検査のときと同様、仕事で忙しかったらどうするんだろうと毎度のことのように思うけど、病院より優先される仕事などこの国にはないのだろう。
ちなみに産院はヘルシンキ市内に2軒、隣のエスポー市に1軒あり、実際に産む時はその3つの中から選べるようになっている。選ぶといってもどの産院もほぼ同じ設備で、日本のようにここは麻酔医が常駐してないとかそういう差はないのでどこでもいいのだけど、とりあえず最寄りの産院を選んでおいた。しかし陣痛が始まった段階で病院に電話して、既にベッドが埋まっていたら他の病院に行くよう支持されることもあるらしい。

エコー検査に先立って11週頃、産院とは別のラボラトリーに出向き尿検査と血液検査を行なった。これはあらかじめネウボラを通して予約した日に行って尿検査のサンプルを収め血液を抜いてもらうだけ、30分もかからないが妊娠して初めての検査らしい検査がこれだった。ネウボラでは尿検査さえなかったので妊娠しているか確信もないままだったが、このラボラトリーでの検査はいきなり出生前検査も兼ねているらしい。とはいえ結果はエコー検査の結果と併せて、大きな異常があれば電話がかかってくるというだけ。この時点でまだ妊娠の真偽不明。親にも誰にもいえない状態である。

そしてエコー検査は、自宅で妊娠が発覚してから実に2ヶ月後に行われた。
この2ヶ月間、一応寿司やスモークサーモンなどのなま物などを避けている状態だったので、「これで本当は妊娠してないとかだったら速攻寿司食べ放題に行く」と毎日のように夫に訴えてた。ちょうどホリデーシーズンを挟んでいて夫の実家に帰ったりしていたので、妊娠しているかもしれないことを隠しつつ、つわりの吐き気も抑えてコーヒーを飲むふりをしたり、好物のスモークサーモンを避けたりするのはそれだけ大変だったのだ。
しかしそんな食い時を吹き飛ばすように、エコー検査では子供の姿をしっかりと見ることができた。13週ということで、まだエイリアンのような見た目かもなぁとか色々心の準備をして臨んだのだけど、意外にも人間の形でほっとする。同行していた夫は(彼は平日昼間のネウボラ訪問にも全出席している)とても純粋な人なので感動で早くも涙ぐんでいたけれど、私自身はああこれでようやく妊娠確定だ、とまだ原点に立ったまま、なんとなく膨らんで来たお腹が太った訳ではないようでよかった、などと考えていた。
ちなみに診てくれた専門のエコー検査医は、毎日毎日検査ばかりしているだろうに、「まあ可愛らしい頭」とか「美しい形の脳ね」「完璧な背骨だわ」などと白黒のスクリーンの中の生き物をことごとく褒めまくり、それにもびっくりした。
日本だと毎回エコー検査が受けられるようだけど、この辺の対応はどうなのだろう。日本で出産した友人からは、医師も慣れているので流れ作業でなんの感慨もないなどと聞いたことがあるけれど、妊婦である私自身ももし毎月エコー検査があったら飽きてしまうかもしれない。逆にフィンランドの検査では少ない回数だからこそ検査医の対応もサービス精神旺盛なのかもしれない。そう思うとエコー、2回だけで別にいいじゃん、と考えられるようになった。

検査の翌々日、自宅に封書が届いた。「検査の結果、異常は見られませんでした」というあっさりとした内容だったけれど、フィンランドのサービス、そして郵送事情にしては早い対応に驚かされた。
また検査結果が出たら親に報告しようと夫婦で決めていたので、ようやくここで情報解禁。間も無く私たちはフィンランド版孫フィーバーを見ることになるのだが、これはまた別の項で。

妊娠中の旅行について

私は妊娠中にフィンランドの国外へ5、6回渡っている。国内の宿泊旅行も合わせて数えると10回ほど旅行しているだろうか。
しかしそれはよくありがちな「安定期に入ったし夫婦の思い出作りにマタ旅いぇーい!」みたいなノリじゃなく、もともと入っていた旅行の予定を消化しただけのものがほとんどだ。
というのも夫婦揃って旅行好き、常に次の旅行の予定が入っているような状態なのでこの状況は避けられなかった。

中でも一番大きかったのは、と言っても我が家の旅行の中では「短期旅行」の部類なのだけれど、妊娠9週・10週目に入っていたUAE・オマーン旅行12日間だった。
これで日本に住んでいたら、中東なんて何かあったらどうするの、と言われそうだが、一応言い訳させてほしい。

旅行の予約をしたのは妊娠がわかる前だったが、「もし妊娠したらどうしよう」と考えはした。その上でUAEとオマーンなのだ。
この2国に決めたのは、
1、旅行ばかりして100国近く訪れたことのある夫も、私も共に訪れたことのない国
2、ジカウィルスが発生していない地域
3、寒いフィンランドからエスケープするに最適な暖かい場所
4、冬期休暇中安い場所
という条件から、色々検索して見つけたからだ。

余談だが夫はいつも「カントリーポイント」を口にする。
夫が自分の中で勝手に作り上げたシステムなのだが、旅行に行くならまだ行ったことのない国を訪れて、カントリーポイント(今まで訪れた国数に加算される)をゲットしたい、ということらしい。
そういうわけで、私はせっかくヨーロッパの片隅に住んでいるのだから欧州内を堪能したいと思っても、とっくに欧州の国全部を制覇した夫にとっては「カントリーポイントにならない」ということで、私は未だにベニスやローマ、ブリュッセルなどのメジャーどころに行ったことがない。
そのくせ夫は何度も訪れたことのある日本に、日本人妻の私よりもホームシックに近い感情を覚えスキあらば行こうとするから、厄介なことこの上ないのだ。

さて、そんなカントリーポイントやらに基づいて決めた旅行先。
2国と言っても私たちが滞在したのはドバイとオマーンの首都マスカットのみ、しかもいつもは貧乏旅行ばかりでキャンプ旅やホステル泊ばかりなのだけど、この時ばかりは物価の違いを利用させてもらい、ちゃんとした星付きのホテルを予約した。それもいつも移動ばかりなのとは打って変わって連泊、ゆったりとした旅行を心がける準備は万端である。
ドバイもマスカットも先進国と変わらない、もしくはそれ以上に発展した大都市である。駐在員が山ほどいる国際都市でもあるので英語の通じる病院も多い。関係ないが無印やダイソーまである。

なので妊娠がわかってからも旅行キャンセルなどは考えず、むしろ「ドバイにしてよかった」と胸をなでおろしたというのが実際のところだ。
そもそもこの旅行の頃は妊娠初期。何かあったら、というのはもちろん頭の中でシミュレーションしたし夫婦で真面目に話し合ったりもしたけれど、その何かは母体が何をしても(もしくは何もしなくても)起きる出血やその末の流産なので避けようがない。初期の流産は胎児の染色体異常が原因で、よほどの無茶をしない限り母体の落ち度ではないのだ。もちろん旅行保険には常に入っている。
あとは何かあった時に「あのとき旅行にさえ行かなければ……」と自分を責めるかどうかというメンタルの問題だけだが、そこは自分は大丈夫だろうと判断した。旅行に行かなくても、もし自責の念が芽生えてしまうならば食べ物や生活習慣、年齢など小さいこと一つ一つを気にするだろうし、その沈みは受け入れるしかない。そこまで覚悟していた。
そんな覚悟の上でネウボラの初回訪問で相談すると、ネウボラおばさんは手放しで「いいじゃない、太陽光たっぷり浴びてきなさいよ」と大歓迎ムードだったので、むしろ拍子抜けしてしまったほどだ。

それでも実際の旅行では砂漠の醍醐味とも言えるラクダライドや、サンドバギーなどのアクティビティは避け、午前中はホテルのプールでゆっくりしてから午後は観光、などといった、我が家には大変珍しい旅行メニューでのんびりさせてもらった。
つわりはピーク時だったけれど、4週目から始まったそれもひとつきを過ぎ吐きつわりからお腹が空くと吐く(吐いても胃酸ぐらい)という食べつわりに変わっていたので、この頃には自分でコントロールもしやすくなっていた。
気温だけが唯一ネックで、街中にいた時はエアコンが効いていて良かったが、オマーンで砦観光に行った時は27度という気温を体が調整できなくなっていたらしく(日本では35度でも平気だったのに)、目眩を覚えて何度か休憩を挟む羽目になった。けれど、そこは夫が甲斐甲斐しく水を運んでくれたり、日陰を作ってくれたり、砦にやたらある階段を先に登ってその先に階段を登るだけの価値ある眺めがあるか下見してくれたりと逐一世話を焼いてくれたので(細かいが大事なことである)、乗り切ることができた。

その他の旅行では、中東旅行の前に短期だけれどベルリンに2泊で遊びに行ったり、エストニアのタリンにフェリーで日帰り旅行したり、極寒−42度のラップランドへオーロラを見に4泊したり、中期にはロンドン2泊やベルリン・プラハ4泊旅行、後期にも近場だけどストックホルムやまたもやエストニアへ泊まりで行っている。 

かといって妊娠中の旅行をお薦めするというわけでは決してない。
私がそんなに旅行できていたのは、ひとえにEUのおかげである。フィンランドの保険証は申請すればEUバージョンがもらえ、それさえあればEU諸国で病院にかかってもフィンランド国内と同様の保険が効くのだ。海外で病気になって高額な医療費を請求される、という心配もない。
妊娠初期なら旅行保険が効くので中東にも行けたけれど、中期以降に旅行したのは医療レベルに信頼の置ける、そして何かあってもすぐフィンランドに戻ってこれるEU内だけだ(同じEU内でもやっぱり言語の問題とか怪しげな国はあるので一応選んではいる)。

日本では妊娠中の旅行に限らず何かにつけて「何かあったら……」で頭ごなしに反対される気がするけれど、何かあったらどうするの、と聞かれた時に自分の言葉で答えられるぐらいリスク管理ができていれば、あとは自分で判断していいのではないかと思う。

ちなみに中期の終わりに差し掛かった頃のフライトは、座っているだけという状況が大きいお腹に圧迫されて息苦しかったので、そのあとは移動中も身体を動かせるフェリーや、高速バスの代わりの電車を選ぶようにした。そのあたりの体調との相談もマニュアル通りには行かないので、自分で臨機応変に対応できるよう準備しておくといいかもしれない。

8週目:ネウボラ初回訪問

ネウボラは我が家から徒歩15分ほどの所にあった。
風邪などを引いたら最初に行く地域の保健センター(terveysasema)と同じビルにあり、つわりでバスなんかに乗る余裕がなくなっていた身にはこれは本当に助かった。

保健センターもそうだが、日本の病院のように受付はないので、予約していた時間に待合室で待機するだけである。
夫と共に待っているとすぐに名前を呼ばれた。
私を、というか我が家を担当してくれることになったのは50歳前後のベテラン看護師(以下ネウボラおばさん)で、いい人そうでまずはひと安心。なんせこれから何年も付き合うことになるのだ、万が一相性が悪いとなかなか辛い。
個室に入って話を始めると、まずはおめでとう、と電話でも言われたのに改めて祝福される。「妊娠というのは素晴らしい奇跡なのよ」と、毎日飽きるほど妊婦を相手にしているであろう人にキラキラした目で言われると、ネウボラってすごいなぁと感心せざるを得なかった。その言葉に嘘くささはなく、本当に国をあげて子育てを支援してくれている気配を感じる。
それからすぐに本題に入るのかと思えば、私たち夫婦がどうやって出会ったのかとか、一緒になってどれぐらいか、結婚したのはいつかなど、まずはじっくり馴れ初めを聞かれた。単なる興味本位の雑談かと思えばそうでもなく、今後もフィンランドに住むのかどうか、など我が家の人生設計に関わってくる質問もあり、家族カウンセリングみたいだなぁという印象を受けた。

というのもネウボラへ行く前、インターネットから問診票のようなものに入力する必要があった。
その内容は主に生活習慣についてで、酒は飲むのか、タバコは、ドラッグは、という質問から、運動はどのぐらいしているのかや過去の病歴、感染歴、家族の病歴などについてだった。
そしてそれに答える必要があったのは妊娠した私だけでなく夫もで、生まれてくる子供のことを考えたら当然なのだが、この家族がどういう人たちで本当に子供を迎える体制が整っているのかネウボラによって審査されているようだった。
審査というと若干聞こえが悪いが、例えばもしうちがシングルマザーだったり夫にアルコールの問題があったりすると、子供を育てるにはそれだけ負担がかかるし、金銭的・物理的に別途支援が受けられたりする。子供を夫婦で育てるのは当たり前、という前提なので、日本のように母親だけが産婦人科へ通って全て完結するということはなく、家族全体でネウボラのお世話になっていいのだと私の場合は安心できた。

一通り雑談が終わると、ネットで入力した問診票を眺めながら改めて生活習慣の確認と、夫は別口でアルコールに関する詳しい質問票(週にどのぐらいの頻度で飲むのかなど)を記入した。これはアルコールの問題がこの国でとてもメジャーなせいだろう。
以下は初回訪問で聞かれたこと、話したことのメモだが、

・今どう感じるか
 素直におなかがすくと気持ち悪いですと答える。普通のことよ、と軽く言われ安心。
・ふたりはどうやって出会ったか
・一緒にいてどのぐらいになるのか
・結婚したのはいつか
・今後もフィンランドに住むのか
・家はどんな構造か。子供を迎える準備はできているか
・身近に子供はいるのか。兄弟の子供は。ベビーシッター経験は
・それぞれの両親はどこに住んでいるのか
・趣味はなに
 英語で「What’s your hobby?」と聞かれたので食べることと料理、と素直に答えると笑われる。スポーツについてという意味だったらしい。自転車とたまの散歩と答える。

・酒の習慣について(夫はフォームにどれぐらいの頻度で飲むのかなど入力)
・タバコ、ドラッグについても同様。しかしふたりとも一切やらないので無問題。

・食べ物について
 数枚に渡る用紙を渡される。生ものはだめ、とか事前に調べていたものだけど細やかな指導。
 面白いのはサルミアッキとリコリスだめ、という記入。いやいや、食べませんけども。すごくフィンランドらしい。
・料理や食生活について
 日本食を食べてるの?と聞かれ、フィンランド料理も中華もイタリアンもなんでも作ります、料理好きなのでと答える。夫も料理ができると聞いてネウボラおばさん安心。子供ができると毎日料理するのはとても大事なことよと教えられる。
・カルシウムについて
 牛乳を7dl飲みなさい、と言われ驚く。ほぼ1パックじゃないですか!とびっくり。
 牛乳無理ならピーマ(酸っぱい乳酸飲料)でもスムージーでもいいとのこと。もしくはカルシウムのタブレット。
・その他サプリについて
 葉酸も大事だけどビタミンDについてサプリを飲むよう指導。冬期の日照時間が短いため。これもすごくフィンランドっぽい。

・体重チェックと血圧チェック
 これが唯一の、医療機関らしいチェック項目。

・翌週からの旅行について質問
 9週目から10日ほどドバイとオマーンに旅行する予定があった。
 日本だったら何に関しても「万が一何かあったら」でお薦めされないけれど、ここでは無問題。日光たくさん浴びれていいわね、ぜひ行ってきなさいよ、と歓迎ムード。妊娠中期に入っていた小旅行予定も問題なし。結局私は妊娠中、5、6回ほど海外に渡ることになる。これについては後述、「妊娠中の旅行について」。

・体重について質問
 どのぐらい増えていいのか、と聞くと、人によっては25キロと言われ驚く。日本では7−10キロと細かく厳しく指導されるが、これも驚くと同時に安堵。いつから増やせばいいのか、については正常に食べられるようになってから、と大まかな答え。食べたいものを、指導に沿って健康的に食べていれば大丈夫、と言われる。いろいろ日本に比べたらラフだけど気持ちはすごく楽。

・今後のスケジュールについて
 13週目のエコー検査に、医者診察、別途ラボでの採血、尿検査。その結果を交えて14週目に同じネウボラおばさんとの面談の予定を入れる。

最後にフィンランド版母子手帳的をもらい、一時間ちょっとの面談は終わった。そうだ、これは病院の診察というよりは面談だった。
尿検査さえなく、本当に妊娠しているのかという疑問は相変わらず残ったままだが、ネウボラおばさんは「家での妊娠検査薬の結果を信じて大丈夫よ」と穏やかに微笑んだだけだった。実はその妊娠検査薬、日本から持ってきたやつで外装箱を保存してなかった故に使用期限がわからないまま使ったという間抜けな状況だったのだけれど。
でもまあつわりはしっかり過ぎるほど来ているし、全体的に日本と比べて大雑把な感じに私は不安を覚えるよりも安堵した。自分自身大雑把だし、何だか気楽に妊娠生活が送れそう、と。
これが日本で妊娠・出産を経験したのちの第二子とかなら「日本みたいに手厚くない!」などとイライラしまた状況は違っていたのだろうけど、私の場合はなんせ何の知識もない初心者妊婦だったので、そういうものかとそのまま受け入れることにした。エコーが2回しかない件についても慣れた。2回でいいじゃん別に、とどんと構えることにした。
それでもまあ、日本の友人たちにフィンランドの妊娠出産事情を話すとやはりかなり驚かれるので、どうぞ驚いてくださいと言わんばかりに記録を残している次第である。
どっちがいいとかじゃないんだけどね。

妊娠発覚からネウボラへの予約

私の妊娠が発覚したのは比較的早かった。まだ豆粒よりも小さい胎児に対して、この子せっかちなんじゃないかと疑ったぐらい早く、4週目に入る頃にはいわゆる妊娠超初期症状が出まくっていた。変なめまい(普段の低血圧とは違って強め)、鼻水を伴わないくしゃみ、微熱感、食欲の減退。そんなわけで妊娠検査薬を使ったのも4週目、即座に結果が出て、夫にネウボラへの電話を入れてもらった。

フィンランドで妊娠をすると最初に行く場所は病院の産婦人科ではなく、ネウボラという機関になる。
これは妊娠中から出産後、子供が学校にあがるまで同じ担当者(=ネウボラおばさん)がつき、妊娠生活や出産、子育てに関するアドバイスをしてくれる場所で、担当者による家庭訪問なんかもある。
このネウボラの仕組み、日本のメディアでも何度か取り上げられ問い合わせが多いらしく、なんと公式ウェブサイトには紹介動画の日本語版まであるという、外国人として暮らす私には大変有り難い状況であった。

が、事が動画のようにすんなりと進むわけでは、もちろんない。

まずネウボラに夫が初めて電話し、妻が妊娠した、と伝えたときとても温かいお祝いの言葉を頂戴したそうだ。手放しで新しい生命を歓迎するような、そんな雰囲気だったらしい。そこまではいい。
その後最後の生理日と生理周期から、じゃあ今だいたい何週だから、この日に予約入れておきますね、と告げられた日付けは約ひと月も先の8週目にあたる日だった。
妊娠超初期状態から既にしっかりした吐きつわりが始まっている状態で、このひと月はなかなか長かった。
もちろん初回のネウボラへの電話では、今から摂取した方がいい栄養素など質問すると丁寧にアドバイスをいただいたし、その他にも小さい疑問が生じたら電話して聞くことはできたけれど、それより何より自分は本当に妊娠しているのか、そして赤子は無事なのかという肝心なところがもやもやっとしたまま過ごす羽目になった。

そしてそのもやもやは、ネウボラへの初回訪問を終えても残ったままになる。

というのも日本の友人に言うと一番驚かれるのだが、フィンランドでは超音波検査を受けられるのは妊娠生活9ヶ月を通してたった2回(もしくは3回)だけなのだ。
13週と20週、その2回だけ子供の無事を確認でき、初回のネウボラ訪問では心音確認さえなかった。
なので妊婦初心者の私は妊娠発覚してから約2ヶ月後の超音波検査の日まで、胎児の無事はもちろんのこと「これで実は妊娠してなかったらどうしよう」などといらぬ心配をして過ごすことになる。

ではネウボラ初回訪問では何をしたかと言うと、それはまた次回