外食してもやっとしたこと

先日夫と外食してきました。
そのレストランはヘルシンキの中心に位置する湖畔にあり、大きなガラス窓から中をちら見するといつもテーブルにキャンドルの明かりが灯り素敵な人々が食事している様子がうかがえる、そんな場所でした。というのもその湖畔は私の通学路、いつも汗水たらしながらチャリこいで横目で「おかねもちのひとびと」を眺めるという「羨ましスポット」だったのです。
そんな私が、あそこのレストランいいよねー、素敵な雰囲気だよねーと言ったのをうちの夫は覚えてくれていて、さらっと予約してきた……と書きたいところですが、さらっと職場からクーポンを取得してきました(笑)。クライアントの接待に何度も使っているレストランはクーポンをくれるそうで、夫自体は接待業務が少ないエンジニアなんですが同僚のクライアント担当から割引クーポンをおすそわけしてもらったとのこと。もちろんそんなこと気にする私ではないのでむしろラッキー、じゃあ行こうということになりました。

ちなみにヘルシンキの「素敵なレストラン」はそんなに数多くないです。外食自体とても高いので一般家庭では毎週末外食なんて有り得ないし、人口が少ないので自然とレストランの数も少なくなります。市内の主要レストランは話題にあがれば「それどこ?」なんて聞かれることがなく、たいてい誰かが知っている、行ったことがある、そんな感覚です。だからこそきちんと定評のある場所だけが生き残っているような気もします。
逆に日本ではお店がたくさんあって、まずい店を見つけるのは難しいけど、本物の店を見つけるのも同じく難しかったなぁと最近思います。分かりやすくいうとミシュランの三つ星に行っても驚かされるほどおいしいという料理に出会えないこともあれば(サービスなんかは満点なんですが)、雰囲気ばかりのバルだのリストランテだのが軒を連ねていて誰でも散財するのが可能でした。散財、つまり、値段に見合っていないものに対してお金を払いそれを払うもしくは払わせることでいい食事をした気になる、そんな偽物行為が溢れていた気がします。いや、もちろんいいお店もたくさんあったんだけど。
その影響か、たまーに日本で、ちぐはぐな人たちを見かけることもありました。ビルの最上階にあるような素敵なお店で、子供メニューが必要な年齢の子を連れた親子連れがお食事をし(もちろん店には子供メニューなんてないので大人料金)、ついには子供が長ったらしい食事コースについて来れず遊び出すもしくはわめきだす「ねーもう帰ろうよー」。逆に私が昔バイトしていた駅のきったない立ち食い蕎麦屋でおぼっちゃん孫を連れたお金持ち風おばあちゃま(あくまでも「風」)が、「子供向けの椅子やフォークはないのかしら?」と顔をしかめる。いやいやうちデニーズじゃないですけど、むしろ立ち食いだし椅子とか言われても。
と、まあはっきり言ってしまえば「お金出せばなんでも許されるんでしょ」感や「店の選び方使い方を分かっていない」感がものすごく溢れていて、たびたびあいたたーと思わされることがありました。そんな頃(自分が海外に住むなんて想像してなかった頃)に、ヨーロッパでは子供(=半人前の未熟者を)外食に連れていくなんてもってのほか、という考えが普通と聞きまして、ああいいなぁと思っていたものです。
やっと本題。これはそんな日本のもやっと感をこっちでも見たよ!という話です。

件の素敵なレストランは、クリスマスシーズンの多くのレストランがそうするように前菜とデザートはバフェ、メインのみ3種から選んでテーブルサーブされるというスタイルで、たぶん普段よりもカジュアルな雰囲気でした。ウェイトレスの笑顔もとても素敵で、私たちがもらったテーブルはお店のど真ん中、アジア人だから隅に追いやられると思ったけどそんなこともなくちょっと安心しました。回りを見渡すと90%以上が地元民、白人、聞こえてくるのはフィンランド語がほとんどで、カップルが多く女性同士のテーブルもあり、でももちろん子供なんていない、落ち着いた雰囲気でした。
肝心のお料理の方も、フィンランドのクリスマスバフェは三度目の私、メニューはどの店も似通っているものの、それでも驚かされるほどおいしいものがいくつかあり、連れて来てもらってよかったなぁ、いい夫を持ったなぁとしみじみしたものです。特にメインで私が選んだ鴨の骨付きローストは今まで食べたダック料理の中で一番と思えるぐらいの出来で(逆に夫が選んだサーモンは私たちの好みの味付けではなかった)、大満足しました。
そんな食事を楽しんでいる折り、私はちらちらと視線を感じていました。あー、これこれ、よくあるやつだーと思いつつ無視する私。ナンパじゃないですよ、その視線を投げかけてくるのはアジア人女性、多くは日本人の女の子、です。「あの人日本人かなどうかな」みたいな観察の目をね、結構不躾に向けてくるわけです。たぶん多くは旅行者で「せっかく憧れのヨーロッパ旅行なのに日本人に会っちゃったよ」といういやーな感じを覚えるんでしょうね。なんでわかるかって言うと、私も同じだから(笑)。もちろん憧れのヨーロッパだなんて思ってないけど、これ全人種に共通するのではないかと思われる独特の感情で、夫も日本で外国人(主に白人)に会うと「俺の日本なのに!」って悔しがるし、日本語話せる白人にこっちで会うと「俺より話せる…」って落ち込むし、こっちで日本人女+フィンランド男のカップルを見るとお互い視線を合わせないようにするびみょーな空気が流れます。
これが所変わって駅やバス停の場合、多くのそういった視線は日本人旅行者からの助けを求める視線だったりするので夫は率先して助けたりしますが(私はしない。助けが必要なら自分から声掛けるべきって思うし日本人のそういうところが嫌いだから)、ここはレストラン。そのアジア人女性からの不躾な視線はただただ失礼なだけなので私は無視を貫いていました。それでも相手が背を向けたときにちらっと観測すると、やっぱりどう見ても日本人、小柄な20代後半と思しき女性、可愛らしいレースのついたワンピースは日本でしか手に入らない、もっというとこっちの人は絶対着ないテイストなので、旅行者か移住して間もない方だと伺い知れます。バフェテーブルに行くにもおどおどした態度と歩き方、こういうので日本人ってわかるんだよなぁ自分もしっかりしなきゃなぁと我が身を省みる思いであります。
でも私は日本人を見かけたよ、と夫に告げることはしませんでした。そこそこ広いレストランなので気付かなければそれまでだと思ったし、なによりバフェから最後のデザートまでどういう順で食べたら勝ち抜けるか(食べたいものをおいしくより良いペースで食べきれるか)にしのぎを削って味わっていたので、そんなことはころっと忘れていました。デザートの辺りまでは。

私たちはディナーの中でも一番遅い枠に、しかも少し遅れて入店した上、前菜を3ラウンドもしたので、満員だったレストラン内もデザートの頃には半分ほど空席になっていました。メインをすっかり作り終えた厨房の心地よい雑音もやみ、今まで賑やかだったレストランに、落ち着いた雰囲気が漂ってきました。そこに不意に聞こえて来た、覚えのある言語。

「えーそうなんだぁー」

鼻にかかった、日本人の女の子独特の甘ったるい話し方(ここでの「女の子」はもちろん蔑称)。例の日本人が、お連れのフィンランド人女性と窓際のテーブルにつき日本語で会話していました。フィンランド人女性はとても流暢な日本語を話していて、どうやら日本語を話せるフィンランドの友人を訪ねて来た日本人旅行者、といった様子です。私はそのときまで知らなかったんですが、日本人の女の子独特の話し方というのは雑踏の中の中国語並みに回りの雰囲気から浮くもので、さすがの夫もそのテーブルに日本人がいることにすぐ気付きました。
聞きたくなくても自然に耳に入ってくる会話、高い声、なんだかものすごく不思議な違和感を覚えて私はデザートと格闘しつつももやもやとしてました。この違和感の正体はなんだろう、と。
とはいえ私は夫がそれを気にするなんて思いもしませんでした。基本的に女の子好きだと思っていたし、相手が日本人なら容赦もするかと。しかしそうではなかった様子。

夫「なんで日本人がここにいるの?」
私「旅行者じゃない?観光ガイドに載ってるようなお店じゃないのにね」
夫「変。フィンランド人に連れて来てもらったとかだなきっと」
私「気にするんだ?意外」
夫「だって雰囲気に合わない。子供がいるみたい」

あー!と合点がいくというのはこのことか、と。普段日本人のことをべた褒めし悪くいうことはないのに、夫のその辛口な意見はまさに的を射ていました。
その空間にいる大人たち、シニアやミドル、は、例えば子持ち家庭ならばベビーシッターを誰かにお願いして、子供のいない日常を楽しみに来ているのです。レストランというのはここフィンランドではそういう存在で、女子会する居酒屋でもなければお腹を一杯にするための定食屋でもない、まさに雰囲気と美食の両方を楽しむための場所。私たちが行ったレストランは、私たちが行けるぐらいなので決して超高級ではないけれど、そういう暗黙のルールは最低限敷かれているような場所でした。つまりみんなで大人を楽しみましょう、というお約束のもと、もちろん客同士がお互い干渉し合うわけじゃないけれど、逆に他のテーブルに不快感を与えず、お店側の作る雰囲気を壊さないのがマナーです。
そこへ夫の「日本人=子供みたい」発言。腑に落ちつつも、じゃあ日本人妻を娶ったアンタはどうなんだとツッコミたくなったので、まあそこはもちろん突っ込んでおきました。

私「ここにも日本人いますけど」
夫「いや、違うでしょ、種類が」
私「どこが?」
夫「じゃああんな風にしゃべれる?」
私「…すみませんできません」
夫「ほら(ドヤ顔)」

そういえば私の日本人の男友達兼悪友が常々言うところによると「お前が普通の女の子みたいに待ち合わせ場所で俺を見つけた途端『あー!〇〇さぁん!』って言って笑顔で両手振ることできたらブランド物でもなんでも買ってやるよ」だそうで、そう言われてでも私にはそんな真似大抵できないです。

夫「なんで日本人の『女の子』はあれができるの?」
私「雑誌とか安っぽい記事でそうするように勧められてるからでしょ。馬鹿になれ、『えー知らぁない』って言え、って」

とはいえ件の女性は20代半ばか後半。旅行に行くのもお食事に行くのも自由なはずの年齢で、そこは他人の私がとやかく言う筋合いはまったくないけれど、自由だからこそお店選びをしっかりしてほしかったなぁと少し残念に思いました。
もしかしたら彼女はお友達に連れて来てもらっただけで、お友達はどんなお店だかちゃんと伝えておらず、彼女自身が入店した時点で「あーしまった、思っていたより敷居高い」と思った可能性も考えられるけれど、それならそれでせめて背筋を伸ばして、他人をじろじろ、おどおど見ることなく自身のお食事を楽しんでほしい。もっと掘り下げて考えると、「各テーブルにキャンドルが灯った予約必須の素敵なお店」なんてものは日本にはありふれているので、旅行者の彼女はそんなお店との違いを把握できなかったのかもなぁ、それはそれでまあしょうがないかな、とも思いました。
ということでなんのオチもないもやっとした話。

ちなみに後日もう一軒別の、超老舗レストランに連れて行ってもらったら、そちらはさすがというかなんというか、お食事もサービスも店内の様子も全てが素晴らしくてびっくり、アラカルトで最初は予定していなかったデザートまで追加注文して美味しくいただきました。湖畔のレストランも素敵だったけれど、そして老舗の方は結婚のお祝いに頂いたお食事券のおかげで行けたんだけど、もしかしたら私たちの方が最初から選ぶレストランを間違えていたのかもしれません。というのも、最初から湖畔のレストランが超カジュアル路線でたまたま私たちが行った日は落ち着いた客層の中に若い元気な子が混じってた、って可能性も1%ぐらい有り得るので。こればっかりはもう一回行かないと分からない、というわけで夫のおもてなしに期待してます。

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